マーケターに必要とされるスキルは、時代や技術の動向によって常に変化していきます。テクニカルな動向を追うだけでも大変であると感じますが、新型コロナウイルス感染症による生活様式の大きな変化により、仕事と生活のあり方を考え直す必要性も非常に高まっています。
ここでは、キャリア形成とは何を意識することか?また我が国におけるキャリア形成に対する支援方針の変遷を見ていきましょう。
キャリア形成とは
「キャリア (career)」の語源は、ラテン語の「carrus(轍:わだち)」と言われており、車輪の跡を人が辿る足跡や経歴を意味するようになりました。そして終身雇用の時代であれば、一企業における地位や立場の変遷を指し、その経歴を「キャリアパス」として人材育成が行われていました。
しかし、終身雇用が崩壊した現在では、社会的な観点から「時間的持続性ないしは継続性を持った概念」として、生涯、社会における職業生活のあり方全体を示す言葉として使われるようになりました。
それを前提として、キャリア形成とは、厚生労働省が制定する「職業能力開発基本計画」にて、
「労働者が、その職業能力を確認しつつ、自らの職業生活設計に即して、教育訓練を受け、企業を超えても、自らの職業生活設計に即して職業訓練や実務経験を積み重ね、実践的な職業能力を形成すること」
第7次職業能力開発基本計画 第3部 1 (1)
とされています。この「職業能力開発基本計画」は、5年スパンで、その当時の経済社会環境を鑑み、キャリア形成支援の方針が定められています。
つまり、キャリア形成には経済社会環境の変化が色濃く影響しているわけです。では、その変遷を見ていきましょう。
職業能力開発基本計画の変遷
第7次 職業能力開発基本計画 (2001年〜2005年)
厚生労働省
1997年の山一證券倒産を象徴的な出来事として、2001年、リストラに直面した中高年ホワイトカラー人材への個人の主体的な能力開発を推進するシステム整備が行われ、CLに対する悩み・不安への寄り添い、傾聴といったカウンセリングが必要とされました。
第8次 職業能力開発基本計画(2006年〜2010年)
経済社会のサービス経済化及び知識社会化に伴い、多様な人材育成の必要性が高まる中、職業キャリアの準備期にある若年層、発展期でありながら長時間労働環境にある者、円熟期にある高齢者など、キャリア・ステージ段階に応じたキャリア支援が必要とされました。
第9次 職業能力開発基本計画(2011年〜2015年)
人口の減少に対する労働者不足やリーマンショックによる失業率の増加に対応するために、非正規雇用に対する課題改善や更に多様化・グローバル化する働き方への対応が必要とされました。
第10次 職業能力開発基本計画(2016年〜2020年)
人口減少や高齢化と併せて、AIやIoT等の技術進歩により、生産性向上を中心とした我が国全体での人材育成が必要とされています。
しかし、冒頭の通り、コロナ禍におけるニューノーマルが生まれる中、来年度の計画を待たずして更なる変化が求められている現状、自治体や組織に依存せず、自らが能動的にキャリア形成を行おうとする意識が必要であると思われます。
第11次 職業能力開発基本計画 (2021年〜2025年)
厚生労働省
現在の職業能力開発基本計画です。
新型コロナウイルス感染症の影響により、人々が仕事や生活のあり方を大きく考え直すこととなったのは前述のとおりです。そして、テレワークも含むオンラインでの活動を急速に促進したのは言うまでもありません。
こうした中で、社会にとって必要とされる人材の育成を支援するとともに、労働者の主体的なキャリア形成を支援する人材育成戦略を更に強化させる内容となっています。
個々がキャリアを形成しようとするメリット
このように、経済社会環境の変化の中では、必要とされるキャリア形成支援のあり方も変化を余儀なくされます。この環境において、個人が主体的にキャリア形成支援に取り組む大きなメリットは、個々の労働者が自らの興味や適正、労働環境を理解し、自身の能力開発を自発的に行えるようになれば、変化に対応しながら職業生活設計を効果的に具体化できるところにあります。
しかしながら、キャリア形成を主体的に取り組むには、どのような選択肢があるのか、どのような教育訓練の機会があるのかを知る必要があり、これを個々人が網羅することは現実的ではありません。そのために、専門家の活用が必要とされているのも確かです。
現在は、組織人事におけるキャリア相談または転職時の支援企業によるキャリアカウンセリング、ハローワークなどにおけるキャリア支援が主な方法となります。そして今後はより、気軽に相談ができる環境も整備されていくことでしょう。何かのタイミングで自身のキャリアについて考えてみる機会があった時、そのような機関を一度利用してみてはいかがでしょうか。
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寺岡 幸二 (著)